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                   『路傍の空蝉』



  ご近所の水瀬さんの家は、おれにとっては特別な場所だった。
  なぜならば、そこに秋子さんがいるからだ。
  ついでにいえば、秋子さんのひとり娘である名雪ちゃんもいる。
  この春高校へ上がったばかりの名雪ちゃんは、秋子さんに似て――というより、生き写しに近
 いくらいそっくりな、とても可愛らしい娘だ。彼女を見ていれば、娘時代の秋子さんの姿が容易
 に想像できる。性格のほうも、のんびりしているというか、おっとりしているというか、それと
 もいわゆる天然というやつか、とにかくこちらも秋子さんによく似ている。
  ただし、かといって、それが秋子さんがなにもできないということを指しているわけではない。
  秋子さんはああ見えて、本当はしっかりしているのだ。
  理由は知らないが、水瀬家に男の姿はない。
  男というのはつまり、名雪ちゃんの父親であり、秋子さんの旦那であるところの人物のことだ。
  それがいつからなのか、そしていつまでなのかおれには知りようもないが、とにかくいまのと
 ころ、秋子さんは女手ひとつで名雪ちゃんを育てている。親子の会話に見え隠れする部分を拾っ
 てみても、ああ、秋子さんはしっかりしているんだなあ、と思わせる部分が多々ある。すっとぼ
 けただけの女性には、とてもそんなことはできないだろう。
  そもそもおれが水瀬家に出入りするようになったのも、そこに男手がなかったことに起因する。
  あれは去年の夏、丁度一年前のことだ。大学入試に失敗したおれは浪人生活を決め込み、日々
 を自堕落に過ごしていた。バイトをしながらアパートを借りてひとり暮しを堪能し、予備校にも
 通わずにパチンコ三昧の日々というわけだ。
  ある日、ふらふらと商店街を歩いていたおれは、重そうな米の袋を抱えた秋子さんと出会った。
  近所に住んでいる者同士ということで、前々から顔を会わせるたびに秋子さんは挨拶をしてく
 れたが、おれのほうはそっけなく応えるだけで、大した付合いもなかった。しかし、それはなに
 も、おれが秋子さんを嫌っていたということではない。綺麗な女性だなあ、という、たっぷり下
 心を含んだ思いを覚られるのを嫌ったのと、一生懸命に日々を送る――少なくともおれにはそう
 見えた――秋子さんに、いいがけんな自分の生活を見られるのが嫌だったからだ。
  その日も、仕事帰りらしい秋子さんは、おれの姿を認めるとふんわりした笑顔で挨拶をしてく
 れた。いつもなら、どうも、と頭を下げて別れるところ、どうも数日前から悶々とし、彼女もい
 ないおれとしては自慰にふけるしかなく、夜毎日毎に、近所の綺麗な人妻である秋子さんを想っ
 ては無駄に精液を浪費していたこともあって、ひょっとしたら、などという下心から、重そうで
 すねえ、手伝いましょうか、などと申し出たのだった。
  秋子さんは最初こそ断ったが、結局、おれのしつこさに負けたのか、それじゃあ、と米袋を手
 渡してくれた。正直、お礼に私の身体を、なんてこと、本当にあるとは考えていなかったが、ふ
 たり連れだって歩く帰り道、おれはとても興奮した時間を過ごしたものだ。なにしろ、どういう
 意味合いにしろ、憧れていた女性との道行きだ。男のひとは頼りになりますね、などといわれて、
 なあに、はっはっは、などと有頂天にもなった。
  そんなことがあって、おれは秋子さんと少しずつ親しくなっていった。なにか男手が欲しいと
 きにはおれが呼ばれたし、お礼にと夕飯に招待されることもあった。名雪ちゃんとも仲良くなれ
 たし、秋子さんはおれが大学に入ろうとしていることを知って、励ましてもくれた。
  ところで名雪ちゃんといえば、おれは彼女の歳を知って少なからず驚いたものだ。つまり、名
 雪ちゃんの歳から計算して、どうやら秋子さんは、どう見積もっても三○代も半ばから後半、ひ
 ょっとすると四○代に乗っているかもしれないのだ。とてもそんな風には見えない。そこそこ大
 きな娘がいることは知っていたが、真面目な生活サイクルとは縁遠いおれのこと、学校に通った
 り、帰宅してくる名雪ちゃんの姿を、それまで見たことがなかったのだ。
  そうやって秋子さんと親しくなるにつれ、おれの妄想はどこまでも膨らんだ。旦那が不在であ
 ることに気づいて、まさか結婚などということは考えはしなかったが、一度や二度の情事くらい
 は、などと自慰にも拍車がかかった。もちろん秋子さんはいいひとだから、おれはそんなことは
 おくびにも出さなかったし、無理やりなんてことは、あくまで想像の中だけでの話だ。案の定と
 いうかなんというか、年が明けてまたしても大学入試に失敗、二浪目に突入したおれを慰めてく
 れる秋子さんに、いっそむしゃぶりついてしまおうかと思わなかったわけではないが……。
  そんなわけで、水瀬家はおれにとって特別な場所であり、こうして今日もまた夕食に招待され
 たおれは、玄関の前でもぞもぞと落ち着かない気分に陥っているという有様なのだ。そも、お夕
 食でもいかが、などと受話器から流れてくる秋子さんの声を聞いたときから、心中は錐揉み状態
 ではあるのだが。
  それでも嬉しくないはずがない。
  おれはいつものように呼鈴のスイッチを軽く押した。
  扉の向こうで平凡な電子音が鳴り、ようやく暮れかけた夏の空のどこか遠くから聞こえてくる、
 そろそろ鳴きやみはじめたセミの声が、妙に胸中をざわめかせる。
  扉が開いた。
 「いらっしゃい」
  にこにこと迎えてくれたのは、私服姿の名雪ちゃんだった。心底から歓迎してくれているとい
 うのがひとめでわかる。この年頃の女の子というものは、凡そ男性に嫌悪感を抱くか、さもなけ
 れば病的なまでに面食いと相場が決まっているが、どうも彼女にはそういったところがまるで見
 受けられない。まあ、しがない浪人生としてはありがたい限りではあるが。
 「こんばんは」
 「どうぞ、入ってください」
  挨拶を交わしてお邪魔させてもらう。敬語はつかわなくていいよといってはいるが、さすがに
 そのあたりはまだまだだ。へんに馴れ馴れしいのは、やっぱり嫌なのかもしれない。
  ダイニングキッチンに通される前から、うまそうな匂いが漂っているのがわかった。これは和
 食に違いない。
 「どうも、お誘いしてもらって……」
 「いらっしゃい、すぐできますから、少し待っててくださいね」
  頭を下げながら部屋に入ると、料理の途中らしい秋子さんが笑顔で迎えてくれた。
 「はい、どうぞ」
  名雪ちゃんが引いてくれた椅子に腰掛け、おれはちょこんとかしこまった。――少なくともか
 しこまったつもりだ。その隣に名雪ちゃんが座り、見届けた秋子さんはまた料理に取りかかった。
  それから、おれは名雪ちゃんと他愛のない会話を交わす。これもいつものことだ。時折、立ち
 働く秋子さんがにこやかに話に加わり、そのたびにおれは彼女の唇の動きや、やさしくふくらん
 だ乳房、ふっくらとした尻に眼を奪われた。
  そうなってくるともういけない。いかんなあ、とは思いつつも、どうしても邪なことに思いを
 巡らせてしまう。隣にいる名雪ちゃんの存在すらが、秋子さんへの思いを強くさせる。なんとい
 うのか、この娘を秋子さんが産んだんだなあと考えると、もういてもたってもいられなくなるの
 だ。おれの子も、なんて口走りそうになる。
  おれは椅子から立ち、
 「すみません、ちょっとトイレを……」
  と申し出た。
 「はい、どうぞ」
  はからずも母娘ふたりの同じ言葉に送り出され、おれはそそくさとトイレに向かった。
  小さな個室に入り、扉を閉じ、鍵を掛ける。
  洋式便器の便座を持ち上げて、くたびれたジーンズをトランクスごと膝まで下ろした。
  既に半ば勃起したペニスを手に取り、立ったまま自慰に耽る。
  いつからだろうか、おれはこの家に来るたびにトイレで自慰に耽るようになっていた。どうに
 も我慢ができなくなってしまったのがきっかけだ。このまま放っておいたら、秋子さんの眼を盗
 んで下着の一枚も持ち帰ってしまうのではないかと、本気で思ったくらいだ。
  が、最近はもう習慣というか癖というか、そんな有様になっている。もう脊髄反射みたいなも
 のだ。水瀬家に足を踏み入れれば、この場で自慰に耽る。秋子さんも使用している小さな個室で、
 芳香剤の匂いを嗅ぎながらたっぷりと精液を放出する快感に囚われているのだ。
  あっという間に硬くなったペニスをしごきながら、おれは秋子さんに想いを馳せる。一○メー
 トルと離れていないところにあの女性はいる。乳房と尻を持った、やさしく美しい女性だ。一度
 でいいからあの女性とセックスをしてみたい。もう子供を産んでいるんだし、ひょっとしたら頼
 めばやらせてくれるかもしれない。どういう理屈かはおれにもわからないが、子供を産み育てた
 女性は、ガードが緩いような気がするのだ。貞操観念の欠落というのではなく、なんというのか、
 やさしさからそうさせてくれるのではないかと思ってしまうのだ。
  ぞくぞくした快感が、すぐにやってきた。
 「秋子さん……秋子さん……」
  手の動きが速くなる。ふともも、背中、それから頬の皮膚に、ひんやりとした感覚が這い上が
 り、射精の快楽に眼が眩んだ。
 「秋子さん――おれの子を――産んで――!」
  小さく叫んで、射精した。
  膝が笑って立っているのが困難になる。
  それでも狙いを定めて、便器の中に精液を放ちつづけた。
  すべてを終えたおれは、後始末をして水を流し、扉を開けて、そこで立ち尽くした。
  秋子さんが目の前にいた。
  難しい顔をして、じっとおれを見つめている。
  双方とも声もなく、それでも秋子さんが小声で切り出した。
 「あの、前々からいおうと思っていたんですけど、うちのトイレでそういうことするの、やめて
 いただけませんか……? 名雪もいることですし……」
 「あの……」
  眩暈がした。
  気づかれていた。
  おれはいま、叱責されているのだ。
  あの秋子さんに。
 「あの……でもおれ……秋子さんが……」
  おれは言葉に詰まりながらいった。すみませんと謝ることはしたくなかった。なんだかそうし
 たら、すべてが終わってしまうような気がしたからだ。
 「私のことを想ってくださるのはうれしいですけれど、でも、迷惑なんです」
 「でも、おれ、その……」
  ふられた――のか、実のところよくわからなかった。
  次には我ながら破廉恥なことを早口でまくし立てていた。
 「一回でいいんです、一回だけさせてください! 手で、手でいいですから!」
 「声!」
  秋子さんが眉を吊り上げておれを制した。廊下の向こうに視線をやる。
 「おかあさん、どうしたの? おなべ吹いちゃうよ?」
  そちらから名雪ちゃんの声が聞こえてきたのは、ほとんど同時だった。
 「なんでもないわ、おなべ見ててちょうだいね」
 「わかった」
  ふう、と息をつき、それから秋子さんは厳しい眼でおれを見た。
 「ひとをなんだと思っているんですか?」
  もっともな意見に、しかしおれは必死だった。
 「わかってます、わかってますけど――」
 「出ていってもらいますよ?」
 「してくれたら出て行きますから!」
 「声!」
  もう一度そういって、それから秋子さんはおれを睨みつづけた。
  ややあって、
 「了承」
  そう小さく聞こえた。独り言のような響きだった。
 「え……?」
  戸惑うおれを押し込むように、秋子さんはトイレに入った。
  瞬間、おれは舞いあがるようなうれしさと、どん底の悲しさを同時に味わっていた。
 「一回だけですよ?」
  扉を閉じた狭い空間で、間近に立つ秋子さんがいった。厳しい声だった。
 「あっち向いて、脱いでください」
  事務的にいわれて、おれは従った。
  背を向けているとはいえ、秋子さんの前でペニスをさらすのは気恥ずかしかったが、これが最
 後という思いが迷いを断ち切った。
  下ろした便座を上げてから、おれはペニスを外気にさらした。
  すぐに秋子さんが背中に密着してきた。腕をまわし、細い指がペニスを掴む。
 「う……」
  ひんやりとした指に、とてつもない興奮と快感が潜んでいた。
  秋子さんはむにむにとペニスを揉んでいる。それはつまり、勃起させるためだ。当然といえば
 当然だが、秋子さんは男の生理を理解していて、おれにそれを実践している。どうあれ、自発的
 なその行為に、おれはひとたまりもなかった。
  完全に勃起したペニスを確かめて、
 「剥いてするの? 被せたまま?」
  秋子さんが、やはり事務的に、無感情な声音でいった。
 「被せたままで……」
  おれは包茎であることを指摘されたことに恥ずかしさを感じる余裕もなかった。
  すぐに秋子さんはペニスをしごきはじめた。
  無音の空間に、その音だけがしこしこと響く。
 「あ……あ……秋子さ……ん……」
  興奮に打ちのめされたおれは、性的接触の素晴らしさに蕩けていた。秋子さんの指が動き、腕
 が動き、背中に体温と気配を感じ、甘い香りが全身を包む。
 「はやく出しちゃってください」
  つれなり言葉さえ、秋子さんが射精を望んでいるのだと思うと興奮に繋がった。
  おれは体重を背中に預けた。
  むにゅ、と乳房の柔らかさが伝わる。
  ぐいぐいと押しつけてしまう。
 「ちょっと――だめ――」
  嫌そうにいって、秋子さんが押し戻す。
 「おっぱい、おっぱいおしつけてください――」
  仕方なくなのだろうが、それでも秋子さんは乳房を背中に押し付けてくれた。
 「や、やわらか、やわらかい――」
  ペニスが跳ねるのを感じたのか、秋子さんは押しつけた乳房をこねるようにまわした。一秒で
 もはやく射精させたいのだろう。
 「あ、あ、秋子さん――」
  びくびく、とおれは痙攣した。
 「出るときはちゃんといってくださいね」
 「出ます、出ます――」
 「ちょっと、力抜いて――」
 「出――」
  びゅ、と精液が弾けた。
 「あ、だめ、もう!」
  秋子さんは痙攣するおれの身体を押さえ、派手に飛び散る精液の狙いを便器に定めようと、ペ
 ニスをぐいっとねじった。それでもしこしこと擦ることだけは続けてくれる。
 「いっぱいこぼしちゃって、もう……」
 「ああ、ああ、ああ――」
 「全部出しちゃってください」
  それから数秒間射精を続け、おれはぐったりと全身を弛緩させた。
  とろ、と零れた精液を指で受け、
 「全部出ましたか?」
  秋子さんが訊ねた。
  おれはただ頷くだけが精一杯だった。
 「すっきりしましたか? もうだめですよ?」
  言いながら、トイレットペーパーを手にとり、ペニスを拭いてくれた。
  それからおれを押し退けて、便器といわず床といわずに飛び散った精液を拭いはじめる。扉は
 閉じたままなので、腰を折った秋子さんは大分つらそうだった。
  おれはペニスを出したままその姿を眺めていたが、気がつくと硬く勃起したままのそれをしご
 いていた。
  気づいた秋子さんが見上げ、表情を一段と険しくさせた。
 「口で、口でしてくれたら、もうなにも――」
  懇願に、秋子さんは無言だったが、手にしていたティッシュペーパーを便器に捨てると、便座
 を下ろしてそこに座った。
 「はやくしてください」
  いわれて、おれはあわててペニスを突きつけた。
 「ん、ちが――」
  鼻の辺りにペニスを押し当てられた秋子さんは顔を背け、それから改めてペニスを掴むと、ば
 っくりとペニスを咥えてくれた。
 「あう、お――」
  吐き気を催すほどぞろりとした重い快感に引けそうになる腰を、秋子さんはぐいっとばかりに
 引きつけた。そのまま、ものすごい勢いで舌を動かしはじめた。ペニスの中ほどを唇の柔らかさ
 が包み、そこから先は灼けるような体温と、ぬるつく唾液に包まれている。先端部分をべろべろ
 べろべろ、と絶え間なく高速で刺激する舌の滑らかさは、たちまちおれを狂わせた。包皮の上か
 らでも、それはとてつもなく刺激的だった。
  あっという間だった。
  ちりちりちり、という錐で突き刺すような刺激が肛門の深い場所に走り、どろ、びく、とした
 感覚がペニスの根元に生まれた。
 「き、きもちい――」
  息が詰まった。
  全身が漆でかぶれたように痒く、それを思いっきり掻き毟っているような快感。それが腰の辺
 りに集中して、精液となって弾けた。
 「ん、ふ――」
  秋子さんが眉を潜め、鼻息を漏らした。射精が続く中、それでも舌は精液を絡め取りながら先
 端部分を回転するように舐めつづけている。
 「う――う――う――」
  温かく湿った粘膜に包まれながら行う射精は素晴らしかった。まるで体温で溶けてしまったか
 のようにペニスの感覚が失せ、ただただ射精の快感だけが甘痒く腰を満たす。おれは腰をひくつ
 かせて、たっぷりと精液を放出した。
  跳ねまわっていたペニスがおとなしくなるのを見計らい、ちゅぽん、と秋子さんは口を離した。
 「ん、ん」
  おれに下がれと指示を出し、便座を持ち上げ、
 「ぺっ――」
  と精液を吐き出す。
  それから口のまわりを拭い、
 「後始末」
  と促した。
  おれもペニスを拭い、ぼんやりしたままトイレを出た。
  秋子さんはひとこと、
 「これっきりです」
  と言って、歩き出した。
 「もう、なにしてるのおかあさん、たいへんだよう!」
 「あらあら、たいへんね」
  ふたつのなべ相手に奮戦していた名雪ちゃんに、いつもとまったくかわらぬ声でいい、何事も
 なかったかのように料理に戻った。
  トイレに立って、たぶん一○分と立っていないに違いない。その間に自分の立場がどのように
 変化したのか、おれにはわからなかった。
  立ち尽くすおれに、
 「どうしたんですか?」
  と名雪ちゃんがいった。
 「もうできますから、座っていてください」
  秋子さんもにこやかにいってくれた。
  おれは椅子に座り、それから食事がはじまった。
  結局なにを食べているのか、おれは最後まで意識できなかった。
  帰り際、またこんど、と微笑む名雪ちゃんの後ろから、秋子さんは、またお誘いしてもよろし
 いですか、と訊ねてきた。
  はあ、と頷くおれに、秋子さんの笑顔の真意をはかることはできなかった。
  辺りはすっかり暗くなっていた。
  アパートまでの短い距離を歩きながら、おれはこれからどうなるのだろうと考えた。
  名雪ちゃんに気取られないための演技なのか、それとも、約束をしたということですべてを水
 に流してくれたのか。
  さっぱりわからなかった。
  ただ、また誘ってもらえたらいいなあ、と思った。
  ペニスが疼いた。
  とにかくはやく帰って自慰に耽ろうと考えた。
  地虫が単調に鳴く中、どこかでセミが、ジジ、と苦しげに鳴いて、すぐに静かになった。




                                    おしまいです

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