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               『ラグナロク(脳内)オンライン』


                  アンゼルス Lv10

                    ひとりえっち


  日課をすべてこなし、夕食を済ませ、軽く湯浴みをして身を清めてから扉を開くと、いつも
 と同じように壁掛けの古めかしい時計――滅多にあるものではない貴重で高価な調度品――の
 針は、ぴたりと定位置を指し示していた。毎回まったく同じ時間に自室に戻ることを、彼女は
 取り立てて意識していたわけではない。現にこれもまた毎回、時計に気づくたびに、あら、な
 どと微笑んでいたものだ。
  ところが今日に限っていえば、その時間に自室に入れたことは、ちょっとした奇跡と言えな
 いこともなかった。なにひとつ手を抜くことなく生活を進め、それでいて僅かな時間の合間を
 見繕っては、彼女は蔵書室に足繁く通っていたからだ。時間と空間の謎に対する答えは、魔法
 都市として名高いゲッフェンに居を構える博識者たちが必死になって追い求めているが、未だ
 にそれは掴めていない。
  あまり知られてはいないが、プロンテラ大聖堂は知識と歴史の宝庫でもあった。それぞれの
 分野の専門家が蓄えているより、尚奥深く数多い書物が納められた蔵書室がその中核だ。彼女
 がそこで読み耽っていたものは、生命に関する書物であった。欲する知識を得た彼女は、それ
 からの数時間、ほんのり頬を染めながら、いま、ついにその時を迎えようとしているのだ。
  無骨で、質素で、しかし清潔な室内を横切り、彼女は隅に置かれている小さな机に歩み寄っ
 た。そこからそっと取り上げたのは、これもまた小さな卓上の鏡である。銀箔とガラスを利用
 した、魔法のように景色を映し出す高価な品だが、必要な物となれば、大聖堂の目録に記され
 ていない物はない。
  机の片隅には、彼女が親友のために作った小さなクッションが、今では主もなく寂しげに置
 かれていたが、今日の彼女はそれにも気づいていなかった。就寝前の一時、不衛生だからと取
 り上げられてしまった親友に想いを馳せ、疼くような胸の痛みを感じるのも日々の日課のよう
 なものだったから、ここにきてはじめて、彼女の生活習慣はその項目を削除されたことになる。
 大聖堂ではじめて出来た大切な親友は、小さなねずみであった。
  鏡を手に、彼女はふんわりとベッドに腰掛けた。それからしばらくじっとしていたが、やが
 て意を決したように、それでもゆっくりとはじめたのは、就寝時の着衣として身につけている
 薄手のローブの裾から、恥ずかしげに下着を脱ぎ取ることだった。それから体温をたっぷりと
 吸って柔らかくなった小さな布切れを傍らに置くと、娘らしく柔らかそうな肉のついた脚を持
 ち上げ、愛らしい仕草でベッドに投げ出した。
  こくり、と小さく鳴ったのは彼女の喉だ。鏡を両足の間に据えてローブの裾を捲り上げ、そ
 れが膝頭に達したときにその音は漏れた。
 「だって、わたしの身体です……」
  と納得させるように言ったのは、理由の掴めない羞恥と期待に抗ってのことだ。羞恥は、確
 かにその部分を鏡に写すという行為に因るところが大きいが、しかしそれだけではない。期待
 の方はさっぱりわからなかったが、両者の距離は非常に近いところにあるように思えた。彼女
 が大切に育ててきた胸の果実の奥で、焦燥感を煽る甘酸っぱい果汁がじわじわと広がりつつあ
 った。
  震える手が、完全にローブを捲り上げた。乳白色の太腿の間、その部分が包み隠す物もなく
 鏡に映り、光の反射となって彼女の瞳に届いた。部屋に満ちるのは大聖堂内部に張り巡らされ
 たガス管による、柔らかなガス灯の光だ。
  桜色の頬のまま、彼女はせわしなく微かな呼吸を繰り返していた。緩く開いた唇の間から漏
 れる音は、ひょっとしたらそれすらも桜色に染まっていたかもしれない。
 「すじが……」
  ぽそりと漏れた言葉通り、そこにははっきりとした縦筋が刻まれていた。いや、刻まれてい
 るという言葉は正しくないかもしれない。薄い陰毛は極小の面積にしか見ることは叶わず、そ
 のすぐ下から尻に続く縦筋は柔らかく滲み、ふっくらと盛り上がった左右の肉の狭間にあって、
 刻むなどという刺々しい印象はこれっぽっちもありはしないからだ。
 「パンみたいです……」
  はじめて眼にした己の身体に、彼女はそう感想を述べた。見ただけで柔らかいであろうと知
 れるそこは、たしかに白パンのように見えなくもなかった。もちろん滑らかさにおいては比べ
 ようもなかったが。
 「ええと、女の娘の性器は開くことができるはずです……」
  読み覚えた知識を復唱して、両の手指を左右の肉に添える。
 「あ――」
  思いがけずに沈み込んだ指先に、彼女は慌てた。
 「お、おっぱいよりも柔らかいですか……?」
  無論そこに触れたことがはじめてということはない。ないが、意識して、それも性的にとい
 う意味で触れたのはこのときがはじめてだったから、すっかり戸惑ってしまったのだ。昼間触
 れた少年のそれが伝えてきた硬さとは、到底相容れぬ触感だった。
 「だめです、ちゃんと調べなきゃ……」
  決意も新たに、改めて指を添える。少年の見せた反応。自身の身体に対する戸惑い。それら
 の意味するところを理解しようと知識を得た彼女である。その復習と実践をしなければ、なん
 の為の知識であることか。
 「最初は、こっち――」
  右側の肉を、そっと押し開く。
  ふに、と開いた肉の内側は、見ようによっては白色にも満たないような薄桜色の粘膜だった。
  じっと鏡に視線を送ったその瞬間、
 「きゃん!?」
  彼女は大いに慌てた。指先が滑り、折角開いた肉が、ぷるんと弾んで元に戻ってしまったの
 だ。再び左右の肉が密着して、確かにそこからは、ぴと、という音が聞こえてきた。その感触
 もあった。
 「あう、柔らかすぎですう……」
  かあっと真っ赤になって、そう呟いた。彼女はゼラチンという言葉を知らなかったが、何度
 かそれを食したことはあった。だから、自分のその部分の肉に、まるであの時のあのお料理み
 たいです、という印象を抱いてしまった。確かにそこはただ柔らかいだけではなく、見事な弾
 力にも満ちて、それでいて熱を加えたら溶けてしまいそうな危うさもある。
  それでも、彼女はまた指を添えた。今度はしっかりと指先を肉に引っ掛けて、容易には外れ
 ないようにだ。
 「ん……」
  むず痒さが伝わり、ぞくぞく、と首筋が震えたが、唾を飲みこんで堪える。
  右の肉、それから、左の肉。厚みを保ったまま左右の肉が開かれ、それぞれ折り畳まれると、
 その部分は木葉のような形になって、秘められた内部を鏡に映し出した。しっとりと光る粘膜
 はいかにも敏感そうで、その中央部には、もう一枚小さな木葉を貼りつけたような襞が連なり、
 最上部には三角州のような突起物が見える。最下部には、ふやけたような盛り上がりが確認で
 きた。
  そこからふんわりと温かい上昇気流が発生したような気がして、彼女は、ふるる、と震えた。
 同時に最下部のふやけた盛り上がりがひくついて、内臓の奥深くに刺激が走った。
 「う、動くですか……」
  その部分を見つめる。そこに穴があることは知っていた。知ってはいたが、書物から得られ
 た知識は、遥かに驚くべきものだった。
 「ここが、膣……」
  その穴は膣と呼ばれ、彼女の体内に息づく子宮と呼ばれる器官に繋がっている。筒状の膣に
 は男性器が挿入され、やがて射精、子宮内にて精子と卵子が結合し、新たな生命が宿る。更に
 成長した生命は、膣を抜けて外界へと抜け出で、即ちそれが誕生であるという。
  彼女は、そこから赤子が現れることは知っていた。なぜなら、何度か出産に立ち会ったこと
 があるからだ。自分の妹に、親戚の子供。幼い時分に経験した出来事は、そういうものなのだ、
 という理由なき確信を与え、疑問に思うこともなかったが、さて、ではどうしたら赤子が出来
 るのかという点については、まったく理解していなかった。その時が訪れたならば自然にそう
 なるのだろうとは思っていたが、どうやらそれが間違っていたらしいことを知ったのは、ここ
 に来て、先輩の服事に大まかな説明を受けた時だ。精子に卵子という物質、それが結びついて
 新たな生命となる。そして――。
 「だから、女のひとに会いたかったんですね……」
  新たに得た知識に基づいて、彼女は昼間の少年の行動をそう分析した。
 「膣に入れたかったんですね……。ええと、セックス、です……。ここに入れておしりを振れ
 ば、指で擦るのと同じです……。そしたら、きっと気持ちがよくなって精子が出ます……。そ
 したら……。わたし、赤ちゃんができちゃいます……」
  想像して、また震えた。
 「精子、とっても気持ちよさそうに出てました……。ぴゅうって、飛び出して……。ぬるぬる
 の精子、おなかの中に出されたら気持ちいいですか……? おなかの中に出したら、男の子も、
 もっと気持ちいいですか……? 赤ちゃんができるのって、気持ちいいですか……?」
  それが、実はよくわからない。
 「気持ちいいって、おしっこしたときみたいにですか……? 本には、女の娘もセックスをす
 ると気持ちよくなるって書いてありました……。指で触って気持ちよくなるのは、マスターベ
 ーションです……」
  確かめなければならなかった。左手の指だけで左右の肉を固定――それはいかにも恥ずかし
 い行為だったが――して、右手の人差し指をそっと膣口に近づける。ゆっくりと触れると、思
 いのほか熱い粘膜が、ぷちゅん、と指に張りついた。盛り上がった部分が吸いつくように指の
 腹に絡みついて、ずぶずぶと内側に引きずり込もうとしているようだった。力を入れて引き離
 すと、やはり離すまいとするかのように追随してくる。
 「んふん――」
  鼻腔から娘色の吐息を漏らして、彼女はすっかり夢中になった。気持ちがいい、というよう
 なはっきりとした感覚ではなかったが、確かにそこから疼きのようなざわめきが広がる。両足
 を開き、背を丸め、懸命になって股間を刺激する彼女の姿は滑稽であったかもしれないが、そ
 れを眼にしたとして、馬鹿にできる者はひとりもいなかっただろう。一人の少女が己の肉体に
 秘められた生命の奇跡の扉を開こうとしているのだ。
 「あ――きゃ――」
  ぴとぴとと指の腹で膣口を叩き、時折ぞくりと首筋を震わせる。
 「むずむずします……むず……あう……なにか……なにか出ちゃうです――ッ!?」
  ぷるるん、と尻が震えたかと思うと、ぴゅるん、と膣口から液体が飛び出した。
 「あ、う――ッ!?」
  ぞくぞくっとした刺激が走り、
 「せ、精子出ちゃったですか……?」
  慌てて彼女は確かめた。
 「女の娘なのに、せ、精子出たですか……?」
  指先に絡みついた物質を確認すると、それは若干白色に濁った液体で、ひどくぬるついてい
 た。唾液のようにも感じられるそれは、しかし明らかに彼女の知る精子ではなかった。
 「精子じゃないです……。これが、愛液ですか……?」
  ぬるぬると指を擦り合わせて彼女は考えた。愛液、という秘密めいた名の体液を己の身体が
 分泌したということに、戸惑いと、隠し切れない嬉しさを覚えてしまう。
 「ぬるぬる……」
  膣口を潤した液体の力を借り、その周囲を何度も擦る。
 「う……ん……あん……」
  円を描くように指は動く。柔らかい膣口の盛り上がりの周囲を、何度も何度も。
 「う、あ――!?」
  尻が跳ねた。
 「きもち……いい……?」
  腰の奥で何かがむずむずと動きはじめた。小さな蟲の大群かもしれない。
 「きもち……いい……う~~ッ」
  切なく呻いて、うっとりと表情を崩した。
 「これが、きもちいいってことですか……? だ、誰にも言えないですう……」
  ぞくぞくする快感は腰骨から脊髄に達し、蟲は小さな牙でそこに噛みついている。送り込ま
 れた毒が脊髄を爛れさせ、堪え難い痒みを発生させている。それが心地よい。心地よくて、恥
 ずかしい。彼女の知っていた気持ちがよいという感覚は、決して恥ずかしいものではなかった。
 たとえば、誰かに肩を揉んでもらい、それが心地よいと述べることは、嬉しいとか悲しいとか、
 感じたことを素直に述べられる種類のものだった。しかし性器を刺激して得られる快感は、決
 して他人には知られてはならないような気がするのだ。あの時のあの少年が、いまの自分と同
 じ快感を得ていたのかと思うと、心臓が激しく高鳴って興奮を煽る。
 「う~~ッ! う~~ッ! き、きもちいいですう~~ッ! うふう~~ッ!」
  はあはあと甘い吐息を撒き散らしながら、無意識に肉を固定している左手の指に力を込めて
 しまう。引き寄せられて、膣口が左右に伸ばされると、盛り上がった粘膜の中央に、小さな穴
 が確認できるようになった。噴火口のような穴の内部はぬるぬると輝き、実に滑らかそうな粘
 膜が続いていた。
 「あ、穴が――」
  彼女は眼を奪われた。
 「ここにおちんちんが入るです……。あう……。き、きもちよさそうです……」
  とこに小さな性器を押し込み、快感に喘ぐ少年を夢想してしまう。膣口は性器の根元を柔ら
 かく包み、穴の内部は温かく、ぴったりと吸いついてはぬるぬると擦るに違いない。少年が覚
 える快感は桁外れに違いない。
 「き、きっとすごくきもちいいです……。うれしそうに精子を出しちゃうはずです……」
   ぬるん、と盛り上がりの内側を刺激して、
 「ひあ――あ、穴、穴、きもちいい~~ッ!?」
  吐き気すら覚えるほどの快感があった。内臓が残らずうねくっている。
 「おちんちん――精子――赤ちゃん――赤ちゃん産みたいですうッ!」
  熱烈にそう想った。少年の性器が熱くてぬるついた精子を嬉しそうに吐き出し、それを自分
 の身体の奥で受け止めたいと願い、その様を夢想しては指を滑らせていた。
   「赤ちゃん――赤ちゃん――赤ちゃん――」
  繰り返して、必死になって性器を擦る。後姿からさえも性の秘密めいた儀式の雰囲気が漂う
 ほどだ。
 「とまらないです、とめられないですう、き、きもち、きもちいいですうっ――」
  快感は腰の奥に蓄積され、それ自体が胎児になるのではないかとさえ思われた。
 「――ひんっ!?」
  びくうん、と跳ね上がって、彼女の動きが止まった。激しく動く人差し指に翻弄された親指
 が、こり、とその部分を刺激したからだ。とんでもない快感がそこから衝き抜け、仰け反った
 顔からは確かに唾液が糸を曳いて飛んだ。
 「クリトリス……?」
  覚えたての知識を活用して、親指の触れた起爆スイッチを確かめる。
 「女の娘の一番敏感なところ……女の娘のおちんちん……?」
  つやつやと輝く体液に包まれた人差し指で、確認するように触れてみる。
 「ひぐ、う――」
  息が詰まった。三角州のような包皮の下に、こりっとした粒が潜んでいる。その粒が前進に
 向けて発信する衝撃に、実はこのとき、彼女は少量の尿を漏らしていた。極度の緊張と弛緩が
 同時に襲いかかってきたせいだ。
 「す、すごいですう……」
  きらきらと瞳が輝いた。すばらしい宝物を見つけた気分だった。
  すぐにその部分をやさしく刺激してやる。
 「あう、あ、すご、ひ、きも、ち、きも、きも、ひ、い、すて、す、すて、すてきッ!?」
  包皮の中で小さな粒がはしゃいでいた。指の圧力から逃げるように、ころころとよく動く。
 「ぼ、勃起した、した、クリ、クリトリス、きもち、きもちいい~~ッ!」
  知識の噴出であったに違いない。
  びくびくと魚のように跳ねる身体に上半身を起こしてもおけず、ぱったりと仰向けに倒れて
 しまう。大きく脚を開き、性器を剥き出しにした挙句、必死になって指を動かしては痙攣する
 姿は普段の彼女からは想像もできないような有様だったが、それでも彼女の雰囲気が失われる
 ことはなかった。汗まみれとなった身体からは甘酸っぱい香りが立ち上り、室内を隈なく満た
 した。
 「マ、マスターベーション、すき、すきです、マスターベーションきもちいい~~ッ!」
  脊髄に巣食う蟲の群れが、そろそろ許容範囲を超えそうだった。圧力が高まり、全身に向け
 て爆発的に広がりそうな予感がある。
 「うあ――うあ――うあ――」
  ぐ、ぐ、ぐ、と尻が持ち上がった。
 「産まれる、赤ちゃん産まれちゃうです、赤ちゃん、赤ちゃん産まれちゃうですうッ!」
  蟲が這い出した。恐ろしい勢いで爆発した。くるり、と彼女は白眼を剥いて、少量の泡さえ
 吹いた。
 「すごい、きもち、いい~~~~~ッ!?」
  それが最後の言葉だった。
  ぶるる、ぶる、ぶるるるるる、ぶる、ぶるる、と不規則な痙攣が襲いかかり、はじめて味わ
 う甘くて激しい性的絶頂の快感に、一人の娘は心酔して尿と涎を漏らした。
  延々、尻の肉をふるふると震わせてから、ぐったりと力が抜けた。
  ぽすん、と尻が落ちると、性器からぷしゅん、と最後の液体が細かく飛び散った。
  荒い呼吸から桜色の響きが消え、落ち着いたリズムを取り戻すには、更に時間が必要だった。
  やがて、
 「赤ちゃん……産んじゃいました……」
  ぽそりと呟きが漏れた。
 「マスターベーション、こんなにきもちいいですか……」
  ふわついた声に、再び桜色の響きが含まれはじめていた。
 「もうひとり、赤ちゃん産みたいです……」
  彼女はその夜、人生で二度目、そして三度目、更には四度目の性的絶頂を味わってから、遅
 い眠りについた。
  最後に考えたのは、あの少年のことだった。




                                       つづく

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