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              『ラグナロク(脳内)オンライン』


                デーモンベインLv10

                 ムナたんVSショタ


  扉を開けて自室に足を踏み入れると、少し遅れて、柔らかく温かい空気が渦を巻くように身
 を包んだ。
  空気には香りが含まれていた。嗅ぎ慣れない香木のそれは、心を穏やかにさせるような落ち
 着いたものだったが、その中にほんの少し、焦燥感を煽るような物悲しい粒子が隠れているよ
 うにも思えた。
  後手に扉を閉めると室内から光は失せて、その香りだけが質量を増した。陽は、丁度中天に
 かかっているころだが、しっかりと閉められた鎧戸が、公平に降り注ぐはずの豊富な光を遮っ
 ている。
  勘を頼りに、壁に備え付けられた瓦斯灯の操作弁を操る。大聖堂内に張り巡らされた瓦斯管
 から供給される気体は炎となり、室内を滲むように照らし出した。
  視線を返すと、『それ』は朝と同じ場所に、身動きひとつせずに存在していた。
  いいや、五日前からだ。
  部屋の片隅に『それ』が身の置き場を定めてからというもの、まるでそこだけ膠ではりつけ
 てしまったかのように、一切の動きが停止していた。時間さえもと思わせるほどの拒絶感には、
 やはり哀しみの気配が潜んでいるようだった。
  彼女は寸刻ためらってから、
 「あの、本当にお食事は……?」
  と声を掛けた。
  返事はないものかと思われたが、実はそうではなかった。
 「ボク、おなか空かないムナ……」
  小さいが、思いのほかはっきりとした声で『それ』は応えた。拒絶されるのではと問いかけ
 るたび、しかし必ず『それ』は応答を返してくる。五日の間に、かすかな訛りが、こちらは耳
 に馴染む程度の意思の疎通が繰り返されていた。
  前代未聞のことだった。
  月の明るい晩のこと。さわりとしたささやかな胸騒ぎに眠れぬ晩のこと。ふと眺めた窓外に
 立つ人影に限りない憐憫の情を揺り動かされた晩のこと。彼女と『それ』は、いかなる魂も関
 知せぬ静寂の中で邂逅を果たした。
  不死者として忌み嫌われる存在。聖職者にとっては相容れぬ存在であり、哀れみを、そして
 百倍も強い嫌悪をもってすみやかに地上から抹消するべき存在。生者でもなく死者でもないム
 ナックと呼ばれる存在が、自らの意思と足をもって、生を享受する者の聖域である大聖堂へと
 赴いてきた。
  本来であれば大騒動に発展するか、悪くすれば人知れずに処理されてしまうような事象であ
 るが、いまのところその気配は微塵もない。生者と死者とに生ずる、そうあるべし、という頑
 ななまでの軋轢の間に、彼女がその身を差し挟んでいるからだ。
  人知れず『それ』――ムナックを自室に招き入れてより五日。空前であり、恐らく絶後とな
 るであろう奇妙な行動の原因を、断片的ながら彼女は掴んでいた。生者が生に飽くように、ム
 ナックもまた、果てしのない『死』に疲れ果て、救いを求めんとしているに違いない。
  ムナックとは、死の世界から立ち返った人々に与えられた呼称であった。呼吸をすることも
 なく、心臓は鼓動を止め、それでもなお活動を行う生ける死者、或いは死せる生者。その多く
 は自身の持つ恨みにより現出するとされる。生者に憎悪を抱き、悪鬼のような振る舞いに及ぶ
 忌むべき存在。少なくとも彼女はそう教えられてきた。
  もとよりムナックとは、王都プロンテラより遥か南東に位置する山岳都市、フェイヨンに伝
 わる伝承であり言葉である。未だ独自の文化風習を色濃く残していることからもわかるように、
 険しい山々に遮られて往来する者も少ない山岳都市は、しかし都市というにはあまりにも貧し
 く、文明の灯に照らされた人々には信じ難いことだろうが、ほんの十数年前まで飢餓や疫病に
 見舞われていたほどだ。苦難の歴史は長く、その間に出た夥しい死者の亡骸は、生きることに
 のみ全精力を傾けねば命脈を保てなかった人々の断腸の思いと共に、火葬に付されるでもなく、
 土葬に付されるでもなく、ただ寒々しい洞穴の奥底に安置されつづけた。そしていつのころか
 らか、それらの死者に仮初めの魂が宿り、生者を求めて現世をさまよっているという風説がど
 こからともなく流れ、時を置かずしてその存在をも確認されるに至って、フェイヨンの人々を
 震えあがらせ、自責の念を抱かせるようになったのだ。つまりそれこそがムナックである。
  聖職者はともかく、一般の人々の間では、ようやくここ最近の危うい世相に乗ってその名が
 広まりつつあるムナックを、しかし彼女は幼いころから知っていた。生まれ故郷のアルベルタ
 が、フェイヨンからそう遠くない場所にあったのが最たる理由だ。僅かにもたらされる『御伽
 噺』は寝物語のひとつとして両親より語られ、そのたびに彼女は幼心に思ったものだった。き
 っとムナックは寂しいのだと。
  いまこうして瓦斯灯に揺らめく姿を眼にして、彼女はその思いを殊更新たにした。死者の世
 界から立ち返るとはそういうことなのか、名を訊いても、いつの時代に生きていたのかを問う
 ても、なぜこの地に赴いたのかと耳を傾けても、ムナックはただ首を振るだけだった。自らが
 何者なのかも忘れ果て、陽光の下を歩くことも叶わず、救いを求め、いくつもの夜を歩きつづ
 けて引き寄せられるようにやってきた来訪者。
  彼女は手にしていた盆に視線を落とした。幾度薦めても決して食事を採ろうとしないムナッ
 クに、それでも毎回自分の食事を削って持参したパンやチーズが載せられている。空腹すら覚
 えないというその言葉が、なぜか涙を誘った。
  机の上に盆を置き、そっと目許を拭ってから、彼女は勤めて平静を保とうと努力した。
 「あの、ええと……」
  と口篭り、思いきって再び口を開く。
 「あの、ムナック、さん……」
  床にじっと座ったままのムナックの視線が、ちらりと動いた。おそらくは肉親のせめてもの
 心づくしだったのだろう、民族衣装のような晴着と揃いの丸帽子には、死者の安息を祈願して
 いるのだろうか、額の部分に矩形の札が貼られその顔を半ば隠していたが、わずかに覗く整っ
 た顔立ちは幼さを残し、彼女に力なく寄せられた瞳は思いのほか美しく透き通っている。
  とくん、とした胸の高鳴りを振り払って、彼女は微笑みかけた。
 「お名前がわからないのは不便ですから、ムナックさんとお呼びしてもいいですか?」
 「………」
  ムナックは無言だったが、こくりと頷いた。
  彼女は嬉しくなった。なにより今日は、ムナックにとっては大切な日なのだ。
 「あの、こちらへいらしてください」
  言いながらベッドに腰掛けると、少し間を置いてムナックが立ち上がった。それが彼ら――
 彼女ら――の特徴であるのか、両足を揃え、跳ねるように歩く姿は確かに恐ろしいものかもし
 れなかったが、彼女は恐れなかった。なぜならムナックが、小刻みに、ゆっくりと近づいてき
 たからだ。これを気遣いといわずしてなんというのだろう。
 「ここに」
  ぽん、とベッドを叩くと、ムナックはちょこんと遠慮がちに腰掛けた。その横顔は相変わら
 ずの無表情だったが、どこか恥ずかしげにも見えた。
 「ふかふかムナ……」
  ぽつりとムナックが言った。
 「そうですね」
  彼女は応えた。問いかけに応答することはあっても、ムナックが自発的に口を開いたのはこ
 のときがはじめてだった。
 「ちょっとあちらを向いていただけますか?」
 「どうしてムナ……?」
 「髪を整えましょう」
 「………」
  ムナックは黙って、そっと彼女に背を向けた。
 「きれいな三つ編みです」
  長いお下げ髪を手に取り、彼女は言った。ムナックの華奢な背中が、きゅ、と縮こまった。
  小さなリボンを解くと、ムナックの髪はさらりと流れて輝いた。見事な黒髪からは香木の香
 りと、こればかりはちっともかわらない少女の香りが広がった。
  彼女はそっとその髪を梳った。
  ムナックの背中から温もりは伝わってこない。拒絶感も確かに感じる。
  でも――。
  彼女は覚っていた。それは決して、ムナックがそうしようとしているからではないのだ。
 「ムナックさん――」
  背中から抱き締めた。
 「大丈夫ですよ、絶対に大丈夫ですから」
  ふいに抱き締められて硬直した背中から、じんわりと硬さが抜けた。
 「ほんとう……ムナ……?」
 「ほんとうです。約束します」
  彼女はそう応えた。
  再びムナックの髪を編み終えたころ、遠慮したような小さなノックが扉から響いてきた。
  立ち上がった彼女はムナックに微笑みかけてから、そっと扉を開いた。
  立ち尽くす人影を見て、我知らずに彼女は頬を染めた。
  あの日以来、彼女の言葉に救いを求めて何度となく訪れてきた少年は、ムナックにおどおど
 した視線を寄せていたが、それでも促されるまま室内に身を置いた。
 「おねえちゃん……」
  切なげに振り向いた少年の股間は、健気に膨らんでいた。
  扉を閉め、彼女はこくりと頷いた。つい三日前もその膨らみに手指で刺激を与え、幼い精を
 放出させてやったばかりだが、生者には生者の苦しみがあるに違いないのだった。
 「ムナックさん、今日あなたは、とっても素敵な体験をします。きっと安らかに眠れるほどの
 素敵な体験です」
  それから今度は少年に、
 「もう苦しまなくても大丈夫です。いつまでもというわけにはいかないかもしれないですけど、
 男の子の苦しみ、きっときれいに抜けるはずです」
  そう告げた。
  少年は不安そうに、
 「ほんとうに?」
 「約束しましたよね?」
 「うん……」
  彼女は微笑んだ。三日前のことだ。事を終えた少年に、今日のこの時間、自分の部屋にくる
 ようにと告げたのは、彼女なりに考え抜いた末の結論だった。
  三日と空けずに射精をせがみに訪れる少年。自慰を覚え、性のなんたるかを知った彼女には、
 それが生きとし生ける者の根源的な欲望、義務、そして目的による苦しみであることがわかっ
 ていた。地に満ちて、やがて訪れるであろう滅亡のその瞬間まで、命あるものは子孫を残さず
 にはいられないのだ。
  安息の地であるはずの世界から、虚ろな生者の世界へと立ち返ってしまった少女。すべてを
 忘れ果て、確たる目的も持たずに現世をさまよう少女には、私怨もなければ肉親への愛情も残
 ってはいないだろう。ではなぜ、と考えるに、彼女にはひとつしか思い当たることがなかった。
 生者としてやらなければならなかった最大の目的を果たせずに逝ってしまった口惜しさが、憐
 れなムナックを縛り付けているに違いない。
  たとえムナックが――生前の少女が、男女の営みのなんたるかを知らなかったとしても、本
 能として焼きつけられた使命には抗えないはずだった。それは少年が、生殖のなんたるかを知
 らずして、それでも活発に造成される精液が溜まるたびに女性の傍において射精を繰り返そう
 としていることからも明らかだった。
  死者は決して生ける者を生み出しはしない。その意味からすれば、彼女の考えは稚拙であり
 背徳的であったかもしれないが、他に手立てがない以上は、彼女は己の考えに従うしかなかっ
 たのである。つまり、生者であり死者であり、同じ苦しみを持つ男女を引き合わせるという手
 段にだ。
  そも、彼女自身、自慰行為に耽りながら何度思ったか知れない。少年を自らの肉体で受け入
 れたとしたら、どれほどのすばらしい体験だろうかと。もちろん倫理からしてそれは認められ
 ないだろう。幸いなことに彼女の属する組織において男女の契りは認められていたものの、し
 かし少年を父親とし、己が母親となることは、様々な面からみて不可能である。それはそのま
 ま、ムナックと少年にも適応される事柄だろう。まして少年は相手の少女の素性すら知らない。
 だが今回は場合が場合だった。だから、彼女は自分の最も欲する事象を、悩める二人に与える
 ことを決心したのだ。これもまた大いなる自己犠牲といえたかもしれない。
  彼女は得体のしれない興奮に囚われているらしい少年に、
 「こちらのムナックさんが、とっても素敵なことをしてくれますから」
  と告げた。
 「いいこと……?」
 「はい」
 「精子、手で出してくれるの……?」
 「いいえ、手じゃありません」
  少年は腰をもじもじと蠢かした。彼にとっての射精とは、手で刺激を与えて行うものだった
 から、実のところ彼女の言葉はよく理解できなかったのだが、なぜか期待するところが大きく、
 興奮が小さな陰茎を疼かせるのだ。
  彼女は、今度はムナックに向き直った。
 「ムナックさん、この方があなたを安らかにしてくれますから」
 「ムナ……?」
  ムナックがちらりと少年を見た。
  すぐに視線を逸らすのを彼女は見た。
  小さな膨らみから視線を逸らしたのだった。
  反応は好ましいものだった。恥ずかしげで、それでいて胸の高鳴るような気配が、確かに伝
 わってきた。それは少年の発散している気配と、まるで同じものだった。
 「さあ」
  少年の背中を軽く押し、彼女は退いた。
  とと、とベッドの傍らに押し出された少年は、そこで立ち止まってムナックを見つめた。
  きれいなおんなのひと。
  少年はそう思った。
 「ムナックおねえちゃん……」
  異性が自分の肉体に興奮を示している。それはムナックにも伝わったであろう。
  こくん、と小さく頷いた。
 「ムナックおねえちゃん!」
  もう一度、しかし今度は叫んで、少年はムナックにむしゃぶりついた。
 「ムナ――」
  二人の身体がベッドの上に弾んだ。
 「お、おねえちゃん、ムナックおねえちゃん――」
  少年はムナックの身体の上で、切なげに身をくねらせていた。どうしたらいいのかがわから
 なかった。
 「おね、おねえちゃん――」
  必死になって腰を押し付けては蠢かした。
 「や――」
  ムナックが、明らかにそれまでとは違う声色で呻いた。
  彼女は察していた。腹部に少年の陰茎が当たるのを感じているに違いない。それはどこまで
 も気恥ずかしく、どこまでも恐ろしく、そしてそれ以上に素晴らしい感覚をムナックに与えて
 いるはずだった。始めて感じる、しかし久しぶりの生の感覚だろう。
 「おねえちゃん、お、おっぱい!」
  少年がわさわさとムナックの乳房をまさぐった。震えのくるような興奮が、なぜかその柔ら
 かい膨らみを求めていた。実際、少年の顎はがくがくと痙攣を示し、腰の動きは尚激しくなっ
 ている。両足をぴんと突っ張り、上下に腰を擦りつけていた。
 「おっぱい、やわらかいッ――」
 「うあ、あん、あ、お、おっぱい、ムナ――」
  ムナックが少年を抱き締めた。
  彼女はこくりと喉を鳴らした。ムナックの乳房は第三者である彼女にまで、服に内包された
 肉の柔らかさをはっきりと伝えてきた。切なく、愛らしく、そこは柔らかな音さえ聞こえるの
 ではと思えるほどに形を変えている。
 「おっぱい、おっぱい――」
 「おっぱいムナ、おっぱいムナ――」
  上と下、双方の肉体がうねり、擦れ、求め合っていた。
 「………」
  黙って見ていた彼女は、そっと己の股間に指を差し向けていた。
  下着の上からこすこすと擦ると、すぐにこりっとした突起物がむくむくと膨れ上がってきた。
 「ひん――」
  小さく仰け反った瞬間、じんわりと生ぬるい液体が溢れた。
  ふっくらとした二枚の肉の間に、ぬるついた感触が広がってゆく。
  かくん、と膝から力が抜けるのをなんとか堪えた。
 「きもち、いいです……」
  呟いた。自慰を覚えてより毎晩欠かさず生殖に想いを馳せては性器に刺激を与えつづけてき
 た彼女だ。ここ五日はムナックの存在により自慰を行わずにいたが、性器をいじりたいという
 欲求は日増しに膨れ上がり、ついに抑えが利かなくなったのであった。
  腰の中に蟲が這い回るようなか弓を覚えながら、彼女はムナックに言った。
 「ムナックさん、きもち、きもちいいですか? おっぱい、きもちいいですか?」
 「いいきもちムナ、ボクのおっぱい、いいきもちムナ――」
  ムナックの息は荒かった。呼吸をしないという死者にあるまじき反応は、与えられた刺激が
 生の悦びに満ちたものだったからだろうか。
 「おっぱ――さきっちょが、さきっちょがむずむずするムナぁ!?」
  もどかしくも甘酸っぱい訴えに、彼女は――それでも性器を刺激しながら――ベッドの傍ら
 に立ち、複雑な構造の服を開いて、ムナックの胸元をさらけ出した。
 「ううう――」
  ふるるん、とばかりに放り出された乳房は小振りだったが、それでも見惚れた少年を激しく
 刺激した。身体は小さく華奢であるのだが、それぞれの部位がやけにふっくらとしているだけ
 に、それも無理はないと思われた。
 「おっぱい――!」
  乳首に吸いついた。
 「ひゃんっ!?」
  ムナックが仰け反った。
  少年は沸騰した脳の命ずるまま、乳首を吸い、舐め、思うさま刺激した。
 「あ、あー、あ、あう、ム、ムナ、ムナ、あーーッ!?」
  ムナックが震えながらもがいた。はじめての性的快感は激しく、死んだ細胞を活性化させて
 いた。くすぐられているのを堪えているようにも見える。それほどの刺激なのだろう。
  少年が乳首から離れた。若干青み掛かったムナックの肌は、それでも蝋のように白く半透明
 に滲んで、淡い藍色の乳首はたっぷりと唾液に包まれて光っていた。
 「ムナックおねえちゃん、冷たい……」
  言って、少年は片方の乳房に顔を押し付けた。
  潰れた乳房がそれでも弾力を失わずに溢れる。
 「でも、いい匂い――」
  少年は己の顔で乳房を揉んだ。
 「う、ん……」
  ムナックがぞくりと震えるのを彼女は見た。少年の言うように死者の肌は温もりを感じさせ
 はしないだろうが、女体のもつ根源的な温かさは微塵も損なわれてはいない。それを少年は感
 たのだろう。そしてまたムナックも。
 「ムナックさんのおっぱい、ぷっくり育ってます……。大切に育てたんですね……。でも、折
 角育てたのに、赤ちゃんにお乳をあげることもなかったんですね……」
  彼女は呟いて、そっと手を伸ばした。
  少年が放置した方の乳房の裾野に指を置き、押すように弾く。
 「ムナ……」
  ムナックが、ひくん、と動いた。
  震えた乳房はどこまでも愛らしく元の形に立ち戻った。
 「柔らかいです……」
  もう一度。
  そしてもう一度。
 「は、恥ずかしいムナ……」
  ムナックが切なげに言った。
 「いやらしいです……」
  そう彼女が言ったのは、果たして誰に向けてなのか。ムナックの乳房を弄びながら、彼女は
 ひどく興奮し、既にぬるぬると濡れた下着を更に激しく擦っていた。ぽってりと充血した性器
 はたっぷりと体温を放出し、脊髄は膿となって溢れ出していた。肛門までがひくついて、流石
 に無垢な彼女を恥じ入らせたものだ。
 「死んだおっぱい――」
  衝動的に口にした。
  口にしてから後悔したが、興奮だけは煽られた。
  唾液にぬるついた乳首を指先が擦る。
 「――!?」
  びくくん、と声もなくムナックが痙攣した。硬く勃起しているであろう乳首は、しかし軽く
 触れた程度では正体は掴めない。ただぬるりとした感触の舌に、ざらりとした細かな突起の存
 在だけが確認できた。
 「ざらざら……。死んだおっぱい、ざらざらです……」
  人差指に親指を添えた彼女は、ひょっこりと突き出した乳首を軽く摘み、少年の陰茎にそう
 したように上下に擦りはじめた。
 「ひ――ひ――!?」
  引き攣った音を喉の奥から漏らして、ムナックが激しく痙攣を起こした。死した脳細胞が性
 的快感を捉え、はしたなく全身の神経に制御不能の悦びを伝えている。
  ぞくり、としたのは、実は彼女の方だった。
  指の間に感じる冷たい乳首は硬度を増し、破廉恥な肉の弾力を伝えてくる。そこからムナッ
 クが得ている快感は、自分も知っているあの性的快感だ。身も世もない、決して他人には打ち
 明けられない恥ずかしい快感だ。口元から唾液が溢れても、それすら拭おうとは思えなくなる。
 誰かに見られたらと思っても、決してやめられない。これまでの人生で身につけた知識も道徳
 も、生きるために必要な知恵も習慣も、すべてが消し飛んでしまう。
 「わたしの……おっぱいも……痺れてます……」
  ムナックの感じている快感を思うと、一切の刺激を与えていない己の乳房にまで甘美な疼き
 が走る。
  夢中になって乳首を擦り、
 「乳首、きもちいいですか? しこしこされて、きもちいいですか?」
  うっとりと言った。
 「ム――きも――いいムナッ! しこ――しこしこ――しこしこッ!」
 「こうですか? こうですか?」
 「もっと、もっと、そこ、しこしこしてムナッ! き、きもちいいムナッ!」
  ぴくん、と確かに乳首が痙攣した。
  少年の陰茎が精液を噴出する様を彼女は夢想した。
 「出してください、精液出してください、きもちよく乳首から射精してください!」
 「で、出るムナ、ボクのおっぱいから、な、なんか出ちゃうムナ――」
  ぐ、と胸が反り返った。
  きゅ、と乳房が収縮したように見えた。
  ぷく、と乳首が膨らんだ。
 「あーーーーッ! あーーーーーッ! あーーーーーッ!?」
  長くムナックが悲鳴を上げた。瞳を反転させ、鼻腔は笑いを誘うほどに拡がっていた。
  ぴゅうっと透明な液体が飛び散った。
  擦られている乳首から、四方八方へと冷たい液体が派手に噴出した。
  ほんの少し、腐臭がした。
 「きも、きもちい、きもちいいムナ~~ッ!?」
  体液を撒き散らしながら、ムナックは歓喜の叫びを甘く漏らし、己の感じている快感を宣言
 してみせた。
  彼女は体液を漏らしつづける乳首に、気絶しそうなほどの興奮を覚えた。ちょろりと股間に
 温みが生まれたのは、おそらく失禁してしまったからだ。それでも乳首への刺激は与えつづけ
 ていた。
 「全部、全部出してください! すっきり射精しちゃってください!」
 「出る~~ッ! 出る~~! すっきりするムナ~~ッ!」
  そこに少年が吸いついた。
  正体不明の体液を吸い、こくこくと喉に送り込んだ。
 「あうあ、あわ、あわわわッ!? あわひッ!? ひあ、あうあうあ~~ッ!?」
  意味不明の言葉を口走り、ムナックは悶絶した。
  最後の一滴まで吸い尽くした少年が、苦痛に歪んだ顔で彼女を見上げた。
 「お、ねえちゃん、もう、もう、精子が……」
  興奮のあまり膝を震わせていた彼女が見ると、少年の腰は震え、尻が規則的に収縮していた。
  射精の兆しに違いない。
 「射精……」
  彼女は呟いて、ぶるる、と震えた。くい、と腰を引いて、甘痒い疼きを堪える。
  それから、
 「いいですよ……」
  と頷いてみせた。
  すぐに少年は身を起こし、ズボンを脱ぎにかかった。
  その間に彼女はムナックの上衣の裾を捲り上げ、袴のような下着を思いきりよく両足から引
 き抜いた。ムナックの股間が剥き出しになり、ふっくらとした肉が両足の間に盛り上がってい
 るのが見えた。陰毛は薄かった。
 「ム……ナ……?」
  息も絶え絶えだったムナックが顔を起こした。
 「なに……する……ムナ……?」
 「きもちいいことです」
 「きもち……いい……ムナ……?」
 「はい」
  と頷き、
 「ムナックさん、性交ってご存知ですか?」
  ムナックは首を振った。それでもどこか期待しているような節が見受けられるのは、言葉の
 響きになにかを感じ取ったからだろうか。
 「とっても素敵なことです」
  彼女はうっとりと言った。
 「すてき……ムナ……」
 「そうです。だから、脚を開いていただけますか?」
  さらりと太腿を撫でられて、ムナックは首筋を震わせた。
 「でも……ボク恥ずかしいムナ……」
  もじもじと身をくねらせる。無感情といってもいいムナックが、ここにきてみせた人間らし
 い行動は、すべてを忘れている死者にはあるまじき、というより、死者ですら本能的な感情を
 呼び覚ます性の力とみるべきだろう。
 「ムナックさん」
  じわりと青白い太腿が開いたのは、彼女の両手が力を加えたからだ。それでもムナックに抵
 抗はなかった。
  両足が開ききると、やはり青白い性器が姿を現した。はしたないとされる脚を開くという行
 為が、つまり男性を受け入れる為のそれだということを思い知らされて、彼女は膣口から温か
 い体液を溢れ出させた。
 「ムナ――」
  上擦った声が漏れた。
  彼女が指を使い、ムナックの性器を押し広げたからだ。
 「ムナックさんのもぷにぷにです……」
  自分の性器にも劣らない肉付きの良さに、彼女は震えた。
  ぷっくりとした肉を開くと、ねちゃ、という音が響いた。
  冷たい粘液が粘膜の間にたっぷりと含まれていた。
  それは引き離される肉を繋ぎとめようとしばらく留まっていたが、やがて重力に負けてとろ
 りと流れていった。
 「死んだ性器……」
  また彼女が言った。
  ムナックのそこに、やはり血色はなかった。青白い粘膜が冷たく広がっていた。
 「ここも、死んでいますか……?」
  包皮に覆われた陰核を、彼女は指先で転がした。
 「ひ、きも、きもちいいムナッ!?」
  びくびくびく、と立て続けに痙攣が走った。冷たい体内に蟲の大群を感知して、ムナックは
 唾液を撒き散らせながら腰を持ち上げてしまった。
 「ぬるぬるでこりこり……」
 「むひッ!? む、ひんッ!? ひ~~~んッ!?」
  悦びのあまり、ムナックは膣口から体液を噴出させた。ぴゅ、ぴゅる、ぴゅう、と、続けざ
 まに噴出する体液は、それでも粘度を保ったまま、弧を描いてシーツに細長い文様を描き出し
 た。
 「すごい、すごいです……。女の娘の宝物ですう!」
  直感的な思考を言葉にして、彼女は夢中になって陰核を刺激した。
 「もっと、もっと出してください! ぴゅうって、出してくださいです!」
 「ひ――は――あ――あへ――あ――」
  間欠的な炸裂音が混じった。
  それは小さな音だったが、ムナックの滑稽な反応に呼応して続いた。
  音は性器の下から漏れていた。
  肛門が収縮を繰り返していた。
 「う、ううう――」
  呻き声は第三者と成り果ててしまった少年が漏らしていた。
  我に返った彼女が見ると、少年はムナックの狂態を見つめながら健気に影茎をしごいていた。
 「あ、ご、ごめんなさい……」
  慌てて彼女は身を引いた。
 「ふは……」
  糸が切れたように、ムナックが持ち上げていた尻を落とした。
  彼女はムナックの両膝を立ててそのまま開き、ひっくりかえった蛙のような格好を採らせた。
 「さあ、どうぞ」
  促したが、少年は泣きそうな顔で唸った。
 「どうしたらいいのかわかんないよう……」
 「おちんちんを膣に挿れるんです」
 「ちつ……?」
 「小さなあなです」
 「あなって、どこに……?」
  はじめて眼にする女性器に、少年はひどく戸惑っているようだった。
  彼女は心臓を甘く脈打たせながら、再びムナックの性器を指で押し開いた。
 「ここです……」
  慎重に膣口の部分を開くと、ふっくらとした輪の内側に、ぬめぬめと輝く粘膜の筒が続いて
 いるのが見えた。時折、輪の部分が蠕動するように収縮するのが卑猥だった。
 「きもちよさそうですう……」
  確かにそう見えた。粘液をたっぷりと纏った膣は柔らかそうだし、その筒状の器官に棒状の
 器官が包まれたとしたら、とてつもない快感が得られるに違いない。またそれは、棒状の器官
 に擦られる筒状の器官にもいえることだろう。ひこ、ひこ、と、己の尻が前後に動いているこ
 とに、彼女は気づいていなかった。だから、幻の棒状器官を筒状の器官で優しく擦ることを夢
 想していることにも、ついぞ気づかないままだった。
 「そこに……?」
 「そうです」
  少年はムナックの両膝に手を置いて身体を支えると、ゆっくりと己の腰を迫り出させた。
 「もうすぐ……。もうすぐです……。きっときもちよく射精できます……」
  こくりと生唾を呑んだのは彼女の方だった。
 「う、うううッ!?」
  異変が起きた。
  少年が激しく前後に腰を振り出したのだ。
  くい、くい、と、幼い陰茎が虚空を抉ったかと思うと――。
 「き、きもちいいようッ!」
  一声叫んで、少年は精液を放った。
 「え……?」
  呆然とする彼女の眼前を、ぷりぷりとした濃い精液が幾度も飛んだ。
 「精子出ちゃってますよ? なにもしていないのに、どうして射精しちゃうですか……?」
  少年の射精はそれでも続いた。
 「ううっ――ううっ――ううっ――」
  湯気さえ立ちそうな精液は、ムナックの性器にも腹部にも飛んだ。
  最後は包皮に阻まれて、とろりと濃厚に垂れ落ちた。
  彼女の体臭をたっぷりと吸ったシーツに、別の匂いが染み付いた。
  少年は肩を喘がせ、時折ひくひくと痙攣を繰り返していた。
 「ええと……」
  予定が狂ってしまい狼狽する彼女は気づいた。
  ムナックが頭を起こし、じっと見ていた。
  射精を目の当たりにしたムナックの頬は青ざめていたが、瞳に宿る光がそうではないのだと
 告げていた。
  腹部の精液を、冷たい指が掬い取った。
  ぬるり、と指先が滑る。
 「これ……ムナ……」
 「あの、それは精液といって、男の人の赤ちゃんの――」
  質問を受けたものと思った彼女は言ったが、どうやらそれは間違っていた。
 「これ、欲しいムナ! ぬるぬる、欲しいムナ!」
  上半身を起こす速度は、悪鬼ムナックの名が、必ずしも間違ったものではないのだと彼女に
 思わせるほどに素早かった。激しく揺さぶられ、てんでの方向に震えた憐れな乳房の軌跡だけ
 が網膜に焼きついた。
 「あう!?」
  仰向けに押し倒された少年が悲鳴を上げた。ぴゅ、と尿道に残っていた精液が放出された。
 「ムナ……ムナ……」
  にょっきりと直立した陰茎に鼻先を近づけて、ムナックは陶酔したように呟いた。
  額に下がる札を捲り上げて、懸命に匂いを嗅いだ。
 「いい匂いムナ……いい匂い……ムナッ……」
 「ひ――」
  あろうことか、ムナックは鼻先を陰茎の先端に擦りつけはじめた。とろとろと滲み出る精液
 がたちまちそこをぬるつかせ、鼻息に翻弄されて汚らしい音を立てた。
 「う、うーっ、うう、うーっ!?」
  少年が未知の行為にもがく。
 「ムナックさ――!?」
  彼女は言葉を飲み込む羽目になった。
  思いきりよく、ムナックが陰茎を口の中に導いていた。
  ぞっとした。
  噛み千切るのだと考えた。
 「あ、あーーーーっ!?」
  少年が悲鳴を上げた。
  ぺたん、とその場に尻をついてしまった彼女は、またちょろりと尿を漏らしてしまった。
 「な、なにこれ、なにこれ、きも、きもちいッ――!?」
  少年はそう叫んだ。
  はっとした彼女は見た。
  ムナックの口が激しく動いている。
  くちゃくちゃと甘い響きも耳に届いた。
  少年の腰に、痙攣が走った。
 「つめたいのが、つめたいのがぐるぐる動いてるようっ!?」
  ムナックの舌だった。
  でたらめに動く舌が、小さな陰茎を上下といわず左右といわず、ものすごい勢いでべろんべ
 ろんと舐めまわしているのだ。
 「いい、いいよ、これ、きもちいいようっ!」
  悦んだ少年はしっかりとムナックの頭を押さえつけていた。
  呆然としていた彼女はすべてを覚り、頬を真っ赤に染め、それから瞳を潤ませて、両手で口
 元を覆った。
 「すごい……ですう……」
  ムナックの行為は衝撃的だった。口と舌で性器に刺激を与えている。考えもしなかった技法
 だった。
  ひいひいとよがる少年と、大量の唾液を溢れさせているムナックに、彼女は陶酔した。
 「やってみたいです……やってみたいですう……」
  ぺろりとこちらは桜色の舌が動いた。
  口元を覆っているてのひらを、ぺろぺろと舐めた。
  怪しい快感があった。
  夢中になった。
  溢れた唾液が、こちらもとろとろと流れ出た。
 「いい、いい~~~ッ!?」
  少年が腰を突き出した。
  がっちりとムナックの頭を引き寄せた。
 「せ、精子きもちいいよう――!」
  びるる、と精液が飛び出した。
  口中にそれを受けながら、それでもムナックは舌を止めなかった。
  たちまち精液は舌に絡みつき、そしてまた陰茎にも絡みついた。
  柔らかい舌に優しく射精を促されて、少年は心臓に痛みを覚えながら、それでも甘く痺れる
 快感に酔い、心行くまで精液を放出した。
  少年の身体から力が抜けると、ムナックは口中の精液を喉に送り込んだ。
 「ん……ん……ん……」
  こくり、こくり、と、愛らしい響きが喉から漏れた。
  それで終わりではなかった。
 「う――」
  少年の身体に再び緊張が走った。
  ムナックは陰茎を離そうとしない。
 「ち、ちがいます!」
  一心にてのひらを舐めていた彼女が、慌ててムナックの肩を掴んだ。
  優しく引き離して、ベッドに寝転ばせる。ちゅぽん、という滑稽な音がした。
 「ムナ、ムナ~~」
  切なげにムナックが見上げた。
 「そっちじゃないです、こっちです」
  と、両足を開かせる。
  少年はそれでも硬度を失わない陰茎をひくつかせて、ムナックの性器に目を奪われていた。
 「ここに、さあ、はやく」
  少年に告げた。
 「欲しいムナ、欲しいムナ~~」
  哀切の訴えを聞きながら、少年がムナックの脚の間に腰をもぐり込ませた。
  今度こそ双方の性器が密着しようとしていた。
  はあはあと息を荒げて、その瞬間を彼女は見守った。
 「はじめての……性交ですう……」
  密着した。
  少年が呻いた。
  細い陰茎の先端が、脂肪をたっぷりと含んだ柔らかい二枚の肉の間に包まれていた。コーヒ
 ー豆のような形の性器が中央部から膨れ、包まれた影茎にはとろけるような圧力が加わる。
 「う、う――」
  両手を突っ張って上半身を支え、少年が遮二無二腰を振り出した。
  粘膜の溝を、そう設計されていたかのように陰茎が滑った。粘膜はぷりぷりとよく弾み、ど
 の位置に陰茎があろうとも優しく包んで離さなかった。
 「うあ、あ、きもっちいいっ!?」
  少年が唾液を溢れさせ、
 「うひ、うひん、うひんっ!?」
  ムナックが悦んで少年を抱き締めた。
  くち、くち、と粘ついた音が流れ、羞恥に満ちた気配が室内を満たす。
  彼女は見惚れそうになるのをぐっと堪えて立ち上がると、少年の尻を掴んで引き止めた。
  それでも少年は腰を振りつづけ、またしても陰茎は虚空を抉り、いまにも射精してしまいそ
 うな勢いだ。
 「えいっ!」
  仕方なく彼女は陰茎を握った。
  それは却って少年を悦ばせる結果になった。
  ムナックの愛液にまみれた陰茎は、ぬるぬると握った手指の中を滑る。
 「わ、わたしの指、膣じゃないですよう……」
  泣きそうな声で言って、彼女はもう片方の手をムナックの股間に寄せた。
  性器を開いて、膣口を露出させる。白い頚管粘液が溢れ出していた。
  そこに陰茎を導いて密着させた。
  後は少年が引き継いだ。
  ぐい、と押し出された腰の圧力に、陰茎がぬぷりと膣に押し込まれた。
 「ひ~~ッ!?」
  甲高い悲鳴は、交わりをもった双方の喉から搾り出されていた。
 「むけ、むけちゃ、むけちゃったよう!?」
  少年は続けてそう叫んだ。挿入を果たした瞬間から狂ったように尻を振っていたから、その
 声はがくがくと揺さぶられている。
  ムナックの狭い膣口が少年の影茎を覆う包皮を剥き下ろし、敏感な先端部を粘膜の筒でぴっ
 たりと包んでいた。そこは冷たくぬるついて、無数に密集した柔らかくふやけた襞や細かい突
 起物が、陰茎の動きに併せて揺らめいてはぐちゃぐちゃと絡み合っているようだった。もとよ
 り男性器に刺激を与えて射精を促すように造られている部分だから、それに優しく包まれた快
 感と満足は恐ろしいほどのものだった。
 「う、う~ッ!?」
  少年が顔を悲痛に歪めた。
 「き、きもちよくてきもちわるい――」
  始めての感覚に吐き気を覚えていた。本来は温かい場所であるはずのそこが冷たかったとい
 うことに、ひょっとしたら本能的な部分が拒絶を示していたのかもしれない。
  それでも腰は止まらなかった。腐り、解けかかった肉片を詰めた竹筒の中に陰茎を挿入して
 いるような感覚だった。ひょっとしたら本当にそうだったのかもしれない。ムナックの愛液は
 高い粘度をもっている。腐った内臓の腐汁でないとはいいきれない。
 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
  ムナックは少年を抱き締め、切なく喘いだ。
 「あっ、あっ、あっ、あーーーーっ、あーーーーっ、あっ、あっ、あーーーーっ」
  時折長い悲鳴も混じった。
  性の快楽に接したときにのみ漏らす、女性独特の声。それはひょっとしたら、他の男を呼び
 寄せる為のものかもしれない。その男が、いま自分を抱いている男より弱いとは言いきれない。
 より強い男の子を孕み、より強い子孫を残す。その為ならば世界中の男を欲情させ、この場に
 呼び寄せて覇権を競わせてやる。それが無意識の内に搾り出される声であっても、そこにはそ
 んな意味が込められているのかもしれなかった。
  しかしいまこの場において、それを耳にしている男は少年ただひとりだけだった。耳にする
 のは始めてでも、本能はそれを甘美なものと受け取った。なんであれその声を絞り出している
 のは自分なのだ。他のどんな男がこようとも、決してこの女は渡さない。自信が限りなく膨れ
 上がった。
  はふう、と桜色の溜息が漏れた。激しく踊る少年の尻と、擦れ合う双方の肉の器官。ムナッ
 クの膣口などは陰茎を放すまいとしているかのように、引き抜かれる陰茎を追って捲れるよう
 に吸いついている。それを見つめる彼女が漏らした溜息だった。
 「我慢できないです……」
  下着を脱ぎ去り、両足を開いて床に座り、そのまま自慰に耽った。
 「き、きもちいいですうっ!?」
  いきなり陰核をいじりまわした。
  少年とムナックの声、ぬぷぬぷとする粘膜の響きを聞きながら、なにより部屋に満ちた性の
 瘴気に包まれて、彼女は激しく興奮していた。
 「くうっ、くぅん、く、うん――」
  子犬のように鳴きながら、ぱったりと仰向けに倒れてしまう。
  そのまま両足を突っ張って尻を持ち上げた。ベッドを軋ませるふたりに見せ付けるように。
 「あ、出ちゃう、あ、出ちゃう、あ、出ちゃう」
  陰核を刺激するたびに尻を振り、その声と同調して尿道から液体を飛ばす。それが尿なのか
 他の液体なのかはわからなかったが、羞恥に満ちた快感は素晴らしいものだった。内臓すべて
 が漆にかぶれたかのように痒かった。
  ぴ、ぴ、ぴ、と飛んだ彼女の体液は、ムナックと少年に浴びせ掛けられていた。
 「あ、あ、あーーっ、あ、き、あ、きもちいい、きもちいいムナ、ムナ、ムナーーーっ」
 「ムナックおねえちゃん、ムナックおねえちゃん、ムナックおねえちゃんっ」
  ひしと抱き合った二人は幸せだった。
  少年は限界だった。
  刺激的な塊が陰嚢付近に発生して、そこを掻き毟りたい衝動が襲い掛かってくる。唯一その
 痒みを抑える方法は、ただひたすら陰茎に刺激を与えることのみだった。ムナックの膣を抉る
 たびに痒みは快感となり、脊髄をも刺激して膨れ上がる。やがてそれは射精の瞬間を待つ精液
 となって、弾けそうなほどに溜まりつつあった。
 「出ちゃう、出ちゃうよーーーーッ!」
  少年の叫びを耳にして、彼女は自慰の快感の中から告げた。
 「あ、あ、ムナ、ムナックさん、もうすぐ、もうすぐです、赤ちゃん、赤ちゃんですっ!」
  意味不明の言葉に、しかしムナックは反応した。
 「赤ちゃん、赤ちゃん産みたいムナ、産みたいムナッ!」
 「すぐです、妊娠です、妊娠しちゃうですっ!」
  ぶる、と少年が震えた。
  木に取り付いた昆虫のようにムナックにしがみつくと、尻を痙攣させながら射精した。
 「うーーーっ、うーーーーっ、きもちいい~~~~~~ッ!?」
  尿道を膨らませ、びゅ、と精液が放出された。腰を押し付けて、膣の一番深い部分に放った。
 冷たい膣に温かい精液が溢れ、その温かさに陰茎はまた精液を放つ。ぴったりと包まれた中で
 行う射精には、自慰によって覚えるそれとは比べ物にならない満足があった。精液が決して無
 駄になっていないのだという嬉しさがあった。誇りが胸を締め付けた。
  ムナックの身体にも痙攣が走っていた。
 「ひいいいいいいいんッ!?」
  甘痒い快感が脊髄を泡立たせ、絶頂感が腹腔を満たした。
  悦びに包まれた。
 「妊娠したムナ――妊娠したムナ――ボク――赤ちゃんできたムナ――」
  引き攣ったような声で繰り返した。
  耳にして、彼女も果てた。
  陰核をぎゅうっと摘み、尻を高々と持ち上げ、しゃあああ、と尿を撒き散らしながら果てた。
 「赤ちゃん、きもちいい~~~~~~ッ!」
  それが最後の言葉だった。




  三日して、また少年がやってきた。
  興奮しながらその陰茎をしごいて射精させたあと、彼女は少し悲しくなった。
  確かにあのときは完全に満足した様子の少年は、しかしまた切なげな顔をして現れた。きっ
 と男というものは、命の続く限り子孫を残そうとするのだろうと考えて、それならば自分のし
 たことは無駄だったのだろうかと溜息をついた。しかも性交を知った少年はそれとなく彼女の
 肉体を求め、彼女もそれを拒みつづける自信がなかった。
 「どうしたらいいですか……」
  誰に言うでもなく呟いたが、ムナックの死に顔を思い返して微笑みを浮かべた。
  すべてが終わったあと、ムナックは本来あるべき死者としてベッドに横たわっていた。いつの
 間にか剥がれ落ちた札に隠されていた素顔は、どこまでも安らかに、どこまでも幸せそうであっ
 た。
  人知れずその死体を始末するのには骨が折れたが、郊外の森に小さな墓所も築いてやった。
  間違いなく憐れな魂は救われた。
  彼女は満足だった。
 「マスターベーション、しちゃいます♪」
  うきうきしながら呟いた。




                                       つづく

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